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少し昔を思い出してください
2000年10月現在、アメリカでは大統領選のピークです。皆さんも御存知のとおり、ゴア陣営もブッシュ陣営も、自分がいかにユダヤ・キリスト教的な意味で「信仰深いか」を投票者にアピールしています。アメリカ合衆国の建国事情なども、こうした現象の背後にあ ることは明らかですが、1つ見逃してはいけない歴史的要因があります。歴史と言っても、最近のことです。1980年代のレーガン政権時代に、政権がアメリカの”右翼的”キリスト教団体(日本とアメリカでは、”右翼”の意味はまったく異なります)の支持を求め、レーガン前大統領自身が大統領選投票前になると(普段は教会に行かない人だったと聞いていますが)、Moral Majority という”右翼的”キリスト教団体の代表者であった牧師の教会に出席したりしていました。いや、レーガン前大統領自身にキリスト教信仰が有ったかどうかを問題にしてはいません。問題は、彼が当時のソビエト連邦に対して採用した強硬な軍事対抗路線の背後に潜むカルト的偽キリスト教集団です。やはり、レーガンさん自身がこうした偽キリスト教を信じていたかどうかは問題にしません。肝心なのは、彼ないしは共和党の強硬政策を支持したプロテスタント・グループが少なからずあったことと、その原因となった偽キリスト教です。
簡単に言えば、「神の国アメリカが、悪の帝国ソビエトといずれは軍事的に闘うことになる。そのとき、アメリカが勝利を収め、地上に平和が訪れる。だから、アメリカが軍事力を増大させるのは神の御意志にかなう」といった偽キリスト教信仰です。
こうした勢力が今も主張を変化させながら、アメリカ国内にそれなりの人数でいるという事実も、大統領選などを考えるうえで無視できない要因です。(アメリカが特に奇妙な社会だと言いたいのでは、ありません。日本でも、ある神道系の政治団体で、当時の総理大臣が大失言をやらかしたじゃないですか。


新約カノン(正典)のなかに、”ヨハネ黙示録”と呼ばれる書物があります。1世紀前後のユダヤ教周辺で成立した文書には、”黙示文学”とよばれるジャンルがありました。”ヨハネ黙示録”も、その語法を利用しています。つまり、”黙示録”とよばれるのはカノンの”ヨハネ黙示録”だけではなく、他にも”パウロ黙示録”、”ペテロ黙示録”、”モーセ黙示録”、”エノク書”、”ラテン語エスドラ書”、その他があります。こうした黙示文学には独特の語法があるので、”ヨハネ黙示録”もその語法をわきまえてから読まないといけません。たとえば、”獣”は支配的な国家を表し、”海”は世界の人々を示すとか。そして何よりも、ヨハネ黙示録の著者がなぜ黙示文学語法を使わないといけなかったのか。つまり、ローマ帝国の官憲からの迫害がありえた状況下で、当時まだ少数派だったキリスト教徒達に”いずれはローマ帝国も自ずから滅びる、君たちの苦しみはいつまでも続くわけではない”といった”反体制的な”メッセージを伝えるには、官憲に読まれても”ワケの分からない”語法を使う必要があったのです。


ところが、こうした読解の基本をわきまえず、自分の好きなような黙示文学を曲解した連中が、特にヨハネ黙示録に関しては歴史の中でも多数現れています。いまここで特に問題にしているのは、同書の16章16節です。有名な、”ハルマゲドン”の箇所です。皆さんも御存知のとおり、オウム真理教(現在の”アレフ”)がこれを勝手に曲解し、殺人行為の正当化に悪用しました。黙示文学の語法をわきまえずに読むと、大変な悪用が可能だということの一例です。
念のために簡単に断っておきますが、この箇所はギリシャ語原文で Ebraisti Armageddwn とあるように(本来、ギリシャ語はギリシャ文字で引用したいのですが、よく”文字化け”を起こすので、ラテン・アルファベットに音訳して表記します。ヘブライ語も同様)、”ヘブライ語でアルマゲドン”と言っています。ヘブライ語 har megiddo は、文字通りには”メギドの岡/山”という意味です。ところが、聖書地図で調べるか、写真等をご覧になればすぐに分かることですが、メギドと呼ばれた地点には山はありません。何と、むしろ平野に近いのです。そばにカルメル山はあります。でも、カルメル山は余りにも有名で、わざわざ”メギドの山”と言い換える必要が有ったかどうか、不明です。あるいは、士師記5:19、列王記下23:29、ゼカリヤ12:11などにあるように、古来メギドという地点では流血の闘いが何度か繰り広げられており、そうした闘いの廃虚のことを”岡”と呼んでいるのでしょうか?実はこの問題、いまだに聖書学者のあいだでも不明なのです。つまり、特定の地点を特定することはできないのです。逆にいえば、実際の地点を指すのではないと解釈したほうが賢明です。そもそも、”アルマゲドン”(”ハルマゲドン”でも構いません。単なる音訳の問題。)という名称自体が、新約カノン中、ここにしか登場しません。つまりは、この”アルマゲドン”という名称自体が実在の場所を指すのでなく、人間の国家が繰り広げる暴虐で残酷で空しい戦闘行為の象徴のようなものなのです。要は、バビロンつまりローマ帝国の自己崩壊を言っているので(強大な軍事力を持つ国家が、その負担に自己崩壊していくのは、昔も今もよくあることです)、世界最終戦争の予言をしているのではまったくないのです。前述のとおり、ヨハネ黙示録は当時の迫害状況にあったローマ帝国内のキリスト教徒への励ましであり、それが黙示文学の語法で表現されているのです。人類世界の終末において具体的に何が起きるかを予言しているのでは、ありません。
これをわきまえずにヨハネ黙示録を曲解した連中は、オウム真理教だけではありまぜん。こともあろうに、アメリカの一部の”聖書主義”を自称するプロテスタント集団(その多くは、”福音主義”を自称していたり、外部からは”ファンダメンタリスト”と呼ばれたりしているようですが)が、アルマゲドンを終末の最終戦争と解釈、しかもそれが当時のソビエト連邦とアメリカのあいだの核戦争になると予想したのです。そして、アメリカが勝利を収めて地上に平和が訪れると。だから、アメリカは軍事力増強に努めねばならない、といった暴走論理でした。

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